アメリカの著作権法改正、Music Modernization Actとは

10月 12th, 2018


今朝、トランプ大統領がMusic Modernization Actに署名したというニュースがありました。
https://www.musicbusinessworldwide.com/make-royalties-great-again-president-trump-signs-music-modernization-act-into-law/

これは、アメリカの音楽の権利者サイドの人たちがここ数年熱望していたものです。

ただ、先月
「古い楽曲を140年以上も保護する著作権法案がアメリカ上院を通過、法律として施行される見込み」
https://gigazine.net/news/20180920-senate-pass-140-year-protection-copyright-bill/
こんな日本語記事が出たりして、日本にいる僕たちにも影響ありそうな気がしないでもないので、ちょっとだけ確認してみたいと思います。

ただ、この話をする前に、アメリカの著作権法(特に音楽に関わるところ)や権利の管理に関する仕組みは日本とはかなり違うところがあるので、押さえておかないといけないポイントがいくつかあります。
以下にかなりざっくりと列挙しますが、

・日本のJASRACはMechanical(録音権)、Performance(演奏権)の両方を管理していますが、アメリカの主な著作権管理団体であるASCAPやBMIは演奏権しか管理していません。
・日本の著作権法上では、著作者隣接権として楽曲の著作権とはわけて扱われている原盤(Sound Recordings)に関する権利が、アメリカではわけずに著作権として扱われています。
・アメリカの現行著作権法は1976年法と呼ばれているもので、1978年1月1日以前に発行された楽曲と以降に発行されたものとで保護期間の仕組みが大きく違います。1978年以降に発行された楽曲の著作権保護期間は作者の死後70年で、日本と同じ考え方で期間が長いだけですが、1923-1977年に発行された楽曲の著作権の保護期間は発行後95年となっていて、考え方が違います。
・1922年までに発行された楽曲の著作権については、保護期間は最長でも1997年で終了しています。
・原盤については、連邦法(著作権法)では1972年以前のものは保護されていませんでした。

と、ここまでを押さえた上で、Music Modernization Actについてですが、メインのポイントは、これまで集中管理になっていなかったために徴収分配がうまくできていなかったMechanical(録音権)の使用料について、新しい組織と仕組みを作って、ちゃんと権利者に分配されるようにしようということです。SpotifyやApple Musicなどの音楽配信が大きな存在になった現在の音楽業界において、必要なことだと判断されたのだと思われます。

もう一つは、Classic Actと呼ばれているもので、先に上げたGigazineの記事のトピックは主にこちらに関するものです。
この記事の中で
「1923年に発表された音楽の場合、2067年まで保護期間ということで144年間の保護を受けるということになります。」
という記述があります。
これだけ見ると、よくネット上で目にする「アメリカはどんどん保護期間を長くしていく」みたいな方向で感じてしまいますが、元記事や関連する別の記事を見てみましょう。

https://www.billboard.com/articles/business/8475876/music-modernization-act-passes-senate-unanimous-support

https://www.eff.org/es/deeplinks/2018/09/new-music-modernization-act-has-major-fix-older-recordings-will-belong-public

法案の原文を見つけられないのではっきりとはしませんが、両記事ともにSound Recordings, Master Recordingsという言葉が使われていることと、1978年ではなく1972年という年が区切りになっていることから判断すると、楽曲の著作権ではなく録音物の権利(日本では著作隣接権)に関するものであろうと思われます。

その上で、Electronic Frontier Foundationの方の記事を見てみると
・1923年以前に発行された録音物は3年後に保護期間終了
・1923-1956年に発行されたものは今後数十年の間にパブリックドメインに
・1957-1972年に発行されたものは2067年まで保護
となっています。

なので正しくは1923年発行の録音物は保護期間95年で2018年まで、ということになり、2067年まで保護されるということでは無さそうです。(ただ、これだと1922年のものより先に切れてしまうので、3年後という方になるのかもしれませんが。)
また、1972年のものも95年で2067年になるので、これも保護期間が長くなった訳ではないのです。1957年のものは計算すると保護期間110年になるので、1957-1971年のものについてだけ、通常よりも保護期間が長くなっているということになります。日本では録音物の権利(著作者隣接権レコード製作者の権利)の保護期間は発行後50年です。ですので、日本で1957年に発行された録音物の権利は2007年までで切れていることになりますが、それがアメリカでは2067年まで保護されるということになるわけです。

ついでですので、Music Modernization Actとは関係ありませんが、録音物ではなく楽曲の著作権の方で一つ実例を上げておきましょう。
ディズニー、そしてジャズのスタンダードとして有名な「Someday My Prince Will Come」という楽曲があります。
この曲の作曲家のFrank Churchillは1942年に若くして亡くなっていますので、日本では戦後加算を考慮しても確実に保護期間は終了していてパブリックドメインになっています。JASRACのデータベースでも確認できます。(※歌詞の権利はまだ保護期間中です。)
アメリカではどうでしょうか。この曲は1937年に発行されています。ということは発行後95年ですので2032年まで保護されるということになります。こちらもASCAPのデータベースで確認できます。
この曲は日本でテレビCMなどにも使われています。日本国内だけで完結する利用の場合は問題ありませんが、インターネット上での利用などで、日本国内に限定できない場合などには注意が必要でしょう。